Letter From 

   LosAngeles

メキシコ


 すげ〜よ!メキシコ!いろんな意味でおっかねぇ! とにかく俺の話を聞いてくれ!長いぞ!文字化けしても二度は書かねぇからな!

 朝の7時にロスを出発、405サンディエゴ・フリーウェイを南に向け80マイル(120キロ)で爆走。そののちフリーウェイ・5に乗り換え、サンディエゴ・シーワールドが横に見えるとそこはもうサンディエゴ。ここまで約2時間。

 ちなみにアメリカのフリーウェイにはCARPOOL LANEというのがあり、指定された人数以上が乗ってる車専用のレーンがある。これはラクチン!渋滞もなんのその。

 途中それでも事故のため渋滞があったのだが、なんと車が1台炎上していた。この光景はさほど珍しくないっていうのがすごいけどね。

 サンディエゴはとても綺麗な街でいかにもカリフォルニアといった趣きを感じられる。

 国境の街といったイメージは微塵もないくらい象徴的なカリフォルニアだ。さてさて、サンディエゴに着く直前になるとある見た事もない看板がちらほらでてくる。黄色のバックに「CAUTION」と書いてある。そしてそこには父、母、娘の3親子が手をひっぱって走っているシルエットが描かれている。「歩行者横断注意?」ちがうちがう!「密入国者に注意」だ!なにも家族3人じゃなくても・・・・俺はいままでこれほど悲しいインパクトを持つ看板に出会ったことがない。そこには観光気分に浮かれる人々を現実、貧富、自己嫌悪の3つの言葉によりイッキにブルーな気持ちにさせてしまう「何か」が存在していた。

 もちろんパンチョでロドリゲスでアミ−ゴな気分一杯でさらにまんてんの笑顔で浮かれ話しをしていた俺達の話題がス〜ッと退いていくのが感じられた。

 そんな気分のままFW5でダウンタウンを抜け約10分、見えてきたよ国境が!

 人間とはなんとやらしい動物なのか?その頃にはパンチョでロドリゲスでアミ−ゴな気分にすっかり戻っていた。国境はただゲートがあるだけのなんとも面白味のないものでそのまま潜り抜けるだけだった。が!5分前と雰囲気はガラリと変わった。パンチョでロドリゲスでアミ−ゴなのだ!道路は汚く狭い。物売りと物乞いがわんさかといる。しかもみんないかにもパンチョ、ロドリゲスといった趣きの面構えだ。

 そこは確かにメキシコだった。

 この国境の街テファナは外貨獲得のための特別法が適用されていてドルも使える街だし英語も問題ないと聞いていたので、イメージ的にはあまりメキシコしていないと思っていた。冗談じゃない!メキシコだ。

 地図もガイドブックも持っていない俺達は、とりあえずカリフォルニアナンバーを付けている車の後ろについていった。でもそれがいけなかった。観光客と思われる人は一人も居ないような通りにでてしまった。狭い道に(ロスに比べれば)汚いバスが黒煙をモウモウとさせながら走り、70年代初頭のシボレーの乗り合いタクシーはけたたましくタイヤとクラクションを鳴らし、信号も一時停止も守るやつは異様に少ない。店という店はあやしくヘタクソな絵の看板を掲げ、ホームレスがパン屋の窓を覗き店主にバケツで水を掛けられていた。

 前がボッコリへこんでいる俺の車は超高級車だ。見た限りでは85年以降に作られたメキシコナンバーの車はひとつもない。「しまった!ここはきっと陰部だ!」頭の中はパニックを起こしそのような単語しかでてこない。ここには英語すらないのだ。

 ニヤリ・・・ここしかねぇ!話のネタになるのは!そう思うとおもむろに錆びた鉄骨とトタンとゆがんだコンクリートで4階建てのパーキングに車をつっこんだ。

 そこから眺めた光景は「誉める」といった単語ひとつ出てこないほど絶望的だった。いままで屋根のひんまがったビルなんか見た事もなかったし、倒れた電柱が突き刺さったままの家なんかお目にかかったこともない。

 メキシコだ。そのうち髭を貯えたマリオがナイフを持って物陰からユラリとでてきそうだ。デスぺラードという映画を見た事はあるだろうか?あそこまでは田舎ではないが雰囲気は一緒だ。そこはこの俺にはこの街の陰部としか映らなかった。

 とりあえず車を厳重にロックし、貴重品は隠しハンドルセキュリティバーを装着し街へ降りることにした。期待は一気に裏切られた。「ゴクリ・・」 店という店は商品でごったがえしている。道を行き交うアミ−ゴ共は何をするわけでもない、ただコロナビール片手に笑っている。問題はアジア人、白人、黒人が一人も居ないのでじろじろ見られている。やばいのかやばくないのか?その区別さえつかない。「カオス」とはこの事なのか?

 とりあえず俺達はメインであろう通りを決して外れる事もなく歩いてみた。そこにはバッタ物のおもちゃ、いかがわしい宝石屋、やばそうなパン屋、豚が丸ごと一匹置いてある肉屋、そして異様な数の薬屋が所狭しと並んでいる。

 薬屋の数が多いのはなぜか? それはアメリカの3分ノ1以下の価格で処方せん無しで薬を手にいれられるからだ。みんなアメリカから買い付けにくるのだ。もちろんこの薬類のアメリカへの持ち込みは違法。さて、面白かったのは玩具屋だ。全てバッタ物。異常なまでに似てないドラゴンボールやスターウォーズのおもちゃが並んでいる。いったい誰が買うのか?謎は深まるばかりだ。

 さて、いつまでもこんないかがわしい場所にいてもホームレスに集られるだけなので車で移動することにした。とてもじゃないがバスなんか乗る気にならない。ぶらぶらと面白そうな物を見つけようとキョロキョロして・・・と行きたいのだがそれは無理な相談だった。狭い道でみんな凄いスピードで駆け抜けていくのだ。死にものぐるいだった。

 そんな折、「いらしゃいませ」と日本語を発見!「レボリューション」と呼ばれる観光専門の通りに出た。ここなら安心と車をとめた。この通りは完全に観光客むけの店が並んでいる。ほとんどが民芸品やレストランだ。なかにはGUESSなんてアメリカブランドのちゃんとした店もある。

 「一安心?」いや、それはない!まずは民芸品の話し。まぁメキシコの民芸品といえばたかが知れている。メキシコのとんがり麦わら帽子にギター、古代文明の遺跡のレプリカ、マリア象に銀のネックレスや指輪。まぁなんとも面白味のない物ばかりだ。

 ただ、呼び込みがすごい!「へィ!アミ−ゴ!マルガリータ、コロナビァ−!タコス!カムヒア−!」おいおい 確かに俺達の知っている飲み物食べ物はそれくらいだけどね・・・・でもね「トモダチ!ヤスイ!ヨッテケ!アンタバカ!イイモノ!トキョー!」これはまだ許そう「チビマルコ!スケベ!ボンボンカネモチ!シャチョサン!イイトモー!」誰に教わったんだ!そんなもん!とりあえず「ピカチュウ」と「ダンゴ」は教えといた。役に立つだろう・・・・しかしそんなのを3メートルごとに話しかけられる。もうぐったり・・・

 ほんとはメキシコ出身の覆面レスラー、ミル・マスカラスのマスクが欲しかったのだが、購買意欲をここぞとばかりに削り取られてしまった。

 惜しい事をしたといまだに後悔している。まぁそれはいい。一番びっくりしたのがこれ!シマウマに乗ってメキシコの派手な帽子をかぶり、さらに特有のマントを羽織り写真を撮ろう!ってやつだ。

 「別にふつうじゃん」そう思った? あまい!

 このシマウマ実はロバ!しかもスプレーでシマ模様を描かれているだけ!「撮りてー!!」そう思ったのだが「たのむからやめてくれ」との強い要望のため却下!いまでは撮らなくてよかった・・と心から思ってる。

 さてここまでくるとさすがに疲れる。3時間で来れるという手軽さのためと便所には意地でもいきたくねぇ!との共通意見のため早くも帰国決定!その前にタバコは買わないとね、で街で唯一マトモなショッピングモールらしきところへGO!これがなんとも面白味のない場所でしかもメキシコではメンソールは人気薄のためあえなく撃沈・・・あっというまに国境ゲートへ・・・

 ゲートではパスポートを見せなければならないのでここで1時間近い渋滞、さぁアミ−ゴ達よ出番だ!ここぞとばかりに物売りがわらわらと出てきた!手にはTシャツやメキシコをかたどったパズル、最後の晩さんのレリーフ、銀のネックレス、聖マリアの肖像画、古代遺跡のレプリカにいたってはなんと2メートル近い物をエンヤコラと持ち歩く始末!

 窓が開いていればしつこく物を売り付ける。笑ったのが子供のいる窓の開いた車を発見した男がやって来て子供の前のダッシュボードの上に嬉しそうな顔をしてパズルを置いた。母親はいらないと言っていたが、男は一向に退く様子もない。ところが幾つかのゲートが開いてしまい急に車の流れがスムーズに!大量のパズルを持って追いかけていくその姿はとても悲しいものがあった。挙げ句の果てにコケてしまったのだ(実話)

 それはまだいい。でっかいレリーフを持った男など、振り向きざまにレリーフを車にぶつけてしまい大騒ぎなっていた。

 そんな物を横目で見ながらいよいよ国境ゲートへ。パスポートと留学生のI-20という用紙を手に緊張してむかう。「何か言われたらどうしよう。ヌンチャクは大丈夫かな?」そんな心配は一気に崩された!国境警備員の阿呆は電話でゲラゲラと女としゃべってやがった!「オーケースイートハート」じゃねぇだろ!しかも隣のレーンの国境警備員なんぞ寝ていやがる! こんなことなら「200ドルでトランクに入れて」と言ってたメキシコの物売り少年の言う事を聞いてやればよかった・・・・・・そんな事を思いながら帰路についたのだった。