Episode 1 「留置所・・・第1章」
LAPDとは、「Los Angeles Police Depertment」の略で、簡単に言ってしまえば警察です。カリフォルニアは「County」と呼ばれる県みたいなもがあり、その中に「City」と呼ばれる市が幾つもあります。
「City」ごとに独自の警察を持ちその上に「City」を統括する「County」の警察があります。警視庁と県警と分署みたいなもんですな。
その他にも「Sheriff」や「High way Patrol」なんてモノもありますが、あまりに警察の種類が多いのでいろいろ利害関係や、統括地区問題、情報の伝達などの問題が多くて大変らしいです。
7月某日
アメリカに留学して来て2ヶ月が経っていた。
ある日メキシコから留学してきた奴と友達になった。こいつがナイスな奴で顔は悪いが性格は良いしおまけに金持ちときたもんだ。何だかんだでかなり仲良くなり、ブラジル、クエート、イタリア、ドイツ、メキシコ、日本という、ワールドワイドな仲間と毎日遊んでいた。(ちなみに俺とイタリア人とドイツ人で日・独・伊の三国同盟と呼ばれている。)
英語が皆喋れる訳じゃないし、レベルも一緒だ。今考えると恐ろしい英語を使っていたと思う。でもなんとなく理解できるし楽しいモノなのだ。これが。
まとまった休みがあったので、メキシコのそいつの別荘へ行こうと計画していたのだが、パスポートに学校のサインが必要と言う事を知らなかった俺達全員は、国境の街サン・ディエゴでそれに気が付き、しょうがないのでサン・ディエゴ観光をしてそそくさとロスに帰って来た。
まだフリーウェイに慣れていないので、運転はかなり疲れた。案の定免許保持者はたったの2人。俺の方が運転が上手いとの理由で、往復6時間運転するはめになってた。
アパートに帰ってこれたのは夜中の12時。へとへとな処に一本の電話が鳴った。
この電話が悪夢の始まりだとは思いもしなかった・・・
電話の相手は流暢な英語を喋っていた。俺の周りにそんな奴はいないし、どうやらアパートのゲートのインターホンから話していた。
この頃の俺の英語力ではさっぱり理解できなかったが頑張って理解する。
「POLICE」の言葉が聞こえたので、外を見てみる。なるほど、パトカーが止まっている。「俺のいない間に何かあったんだ。皆寝てるから俺の所に電話して来たんだな」と勝手な解釈をしてゲートを開けた。ゲートから警官が入ってくるのが見えたので、「何があったのかな?」と思いつつ一服していると、俺の部屋のドアがノックされた。
「はいは〜い。ちょっとまってね〜」
なんの疑いもなく3重にロックされたカギを開けた。
バン!
スゲエ勢いでドアが開く!ビックリしてボー然と立つ俺!警官は全部で5人。私服のおっさんが何か俺に叫んでいる。「はぁ?」なに言ってんのかサッパリ分かんねぇ。
「ロスに来てまだ2ヶ月で英語よくわかんねぇから、もっとゆっくり・・・」と言いかけたとたん!
ぼぐっ!
腹に警棒が突き刺さった!「おげぇ〜」マジで痛い!
そのまま何も分からぬまま手錠をかけられパトカーへ連行される。
アパートの住民はすっかり寝静まっている。誰も助けてくれない。
警官はしっかり俺のパスポートや財布、ビサなどを5分足らずで探してきた。
「しっかり隠しておいたはずなのに・・・」
警官が来て20分足らずで俺は警察署にいた。なんと手際の良い事よ・・・
などと感心している場合じゃない!なんとかしなければ!
しかし言葉が通じないし聞き取れもしない。最悪だ。
とにかく俺は留置所に放り込まれた!
映画でお馴染みの地下にある薄暗い鉄格子の中だ。映画そのまんま。
ホントにぶち込まれた!と言う表現が一番あっている。
回りを見渡すとどうやら出口に一番近い場所のようだ。他の留置所は上手い具合に見えなくなっている。しかし誰かの「う〜っ」とか「あぁ〜つ」などのうめき声がする・・もうおしまいだ・・・
自分が何をやったかも分からないしそんな覚えもない。しかし絶望感だけがこの部屋に確かに漂っている・・・
独房の中は、シミだらけの壁、汚いベット、汚いトイレ、公衆電話しかない。
「ん?公衆電話?」
そう!この国の留置所には弁護士を呼ぶための公衆電話が設置されているのだ!
俺はポケットの中に運良く小銭が入っているのを思い出した!
こっちに住んでいる唯一の知り合いに電話だ!と受話器を取った!
「これで助かる!せめて事情でもわかれば・・・あれ?・・・」
受話器の線が無情にも切れているではないか!!
「マンガか!わしは!!」
もうどうしょうもない。俺は腹をくくってベットの上に横になった。
今日は特に疲れている。眠いが寝れる状況じゃない。幻覚でも見そうな勢いだ。
ゴキブリが3匹、のほほんと歩いている・・・この場所で唯一まともなのは彼らだ。
気晴らしにちょっかい出してみる。誰でも良いから今の状況を少しでも忘れさせて欲しかった。1時間位だろうか・・・俺はゴキブリと遊んでいたのだ・・・
しかしゴキブリが突然「ぶ〜ん」と鉄格子を抜けて出ていった。
俺はホントにがく然とした。ゴキブリにまで見放されたのだ!「くっそ〜」
それから自分が何をやったなんて覚えちゃいない。脳みそリーチかかっていたらしい。
朝方の9時半にLAPDの日系犯罪専門の刑事が来るまで、俺はあの地獄になんと8時間近くもいたのだ!
やっとの思いで話の分かる刑事がやってきた!
しかし彼の口から出た言葉はあまりにも衝撃的だった!
俺には「ひき逃げ」「殺人」「麻薬所持」の疑いが掛けられていたのだ!